日本語学2024年冬号(特集:「文字とデザイン」「ローマ字の規範」)vol.43-4

甲斐睦朗 監修, 荻野綱男 監修, 近藤泰弘 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆文字とデザイン
 日本語は文字種が複数あるだけでなく、それぞれも字種も多く、その字体・字形も複雑であるために印刷書体の種類が乏しいといわれていた。しかし近年では、電子機器の発達と各種ソフトの開発により、デザイナーたちが様々なフォントを新たに制作して公開している。
 一九七八年にJIS漢字として第一・二水準六三〇〇字余りが定められ、コンピューターが普及して各自で選んで利用できるようになって以来、フォントなど紙面のデザインについて一般の関心も格段に高まっており、デザイン上の加工も身近となった。UD(ユニバーサルデザイン)フォントのように、パソコンに実装されたことで内外の教科書の類にまで使用が及ぶものも現れた。そして様々な書体や文字にまつわるデザインに対して自身の繊細な感覚を述べる人たちも増えてきた。
 そこには書体などによる文字の可読性、表現性や訴求力、そして漢字そのものが抱える字体・字形の問題なども深く関わっている。日本語のフォントなど文字のデザインの開発の現状と背景を捉え、その応用を含めた利用の現状と種々の影響について展望していく。

◯漢字と仮名の共存とそのデザイン 白井純 
 ――キリシタン版からみる中世の印刷文化――
◯明治の和文活字書体 内田明 
 ―― 一九世紀日本語印刷文字史の結実と二〇世紀日本語印刷文字史のはじまり――
◯カタカナの憂鬱 祖父江慎 
◯UDフォントからみえる多様性社会の実現 高田裕美 
 ――UDデジタル教科書体の社会背景とデザイン――
◯精興社書体に見る文字デザインの現代化 正木香子 
◯字体のしくみから見る手書きとフォント 佐藤栄作 
◯学校現場から「手書きとフォントの問題」 道村静江 
◯文字のデザインが音声言語に与える影響 笹原宏之 
 ――書体・線の太さ・字の大きさ・色彩・書字方向――

◆ローマ字の規範
 日本語におけるローマ字は、社会ではヘボン式で地名や人名を書くのが一般的でありながら、昭和二九年の内閣告示「ローマ字のつづり方」以来、小学校では訓令式が教えられているなど、長く規範が並存する状況にある。現在、小学校低学年の国語科では日本語の音韻に即した訓令式を学んでも、高学年で英語を学ぶようになるとヘボン式で書くことが求められる。
 近年は、国際化の進展により、外国人にも読み書きしやすい表記が期待され、ヘボン式が望ましく思われることが多いが、情報機器への入力に用いられるローマ字は訓令式もよく使われている。このように、以前と比べて、日本語とローマ字の関係はいっそう複雑な状況を呈している。
 こうした現状を踏まえ、文化審議会国語分科会では、ローマ字の規範を見直す方向で、調査を踏まえた丁寧な検討が重ねられてきた。日本におけるローマ字表記の歴史と現在を解説し、新しい規範はどうあるべきかについて考える論考を、審議会の委員(森山主査、長岡委員)と事務局(武田調査官)から、寄稿していただいた。

◯新たな「令和式ローマ字表記」にむけて 森山卓郎 
◯日本語のローマ字表記の歴史と現在 武田康宏 
 ――国語施策の観点から――
◯国語科におけるローマ字学習の目的の検討 長岡由記 
 ――ローマ字学習指導の困難さに着目して――

【連載】
[新刊クローズアップ]『組版造形 タイポグラフィ名作精選』 白井敬尚 
[二次元世界のはなしかた]『君の名は。』に見る「心の入れ替わり」(その一) 金水敏
 ――新海誠監督作品より――
[にほんごの航海灯]二〇二三年度日本語学会論文賞 陶天龍 
[にほんごの航海灯]二〇二三年度日本語学会論文賞 三宅俊浩 
[方言ほぐし糸1]方言の道は古文に通ず 小林隆 
[ことばのことばかり]字数律もあり? はんざわかんいち 
[国語の授業づくり]「古典探究」漢詩の単元に見る「探究」的視点の育成 潮田央
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[虎の門通信]「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)」について 上月さやこ 
[新刊・寸感]『談話標識へのアプローチ―研究分野・方法論・分析例』ほか 朝日祥之

情報源 /次号予告