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◆方言の現在
地域の生活の言葉であり、共通語と対立するものでもあった方言は、かつてコンプレックスの原因になり、その撲滅が図られたこともあった。その後、社会の変容にともなって方言は衰退し共通語に置き換わりつつある。しかし、共通語に置き換えることが難しく、粘り強く生き残っている方言は確かにあり、また、創作の場やSNSの中で巧みに使われる方言の力は、むしろ増してきているように見える。現代の方言は、共通語と共存し、使い分けられる、新たな機能を持ち始めている。
一方、医療・介護・防災・復興といった、人の生き方や命、安心・安全に関わる分野では、コミュニケーションの円滑化とともに、個人のアイデンティティや尊厳と結びつく言葉の問題として、方言についての議論が活発になっている。人の人生や地域の文化と結びついた方言を保存し、その継承に努める活動にも注目すべきものがある。
本特集では、数十年前とはその姿や価値を変えて存続する方言の現在について、方言研究の一線で活躍する研究者の最新の論考を集成する。
◯レトリック化する現代方言 小林隆
――方言の現在地をめぐって――
◯なくなる方言と生まれる方言 篠崎晃一
◯社会の動きの中で方言をとらえる 村上敬一
――方言規範やアイデンティティとの関わりにおいて――
◯地域の活性化と方言 新井小枝子
――方言研究をたずさえて地域の活動に参加する――
◯方言とエンターテインメント 日高水穂
――現代漫才にみられる地域性――
◯方言と人生 加藤和夫
――方言と人の関わりの多様性――
◯医療・介護と方言 岩城裕之
◯防災・復興と方言 中西太郎
◯方言の継承と教育 今村かほる
――消滅の危機にある言語と方言を中心に――
◯方言資料整備の現代的意義 竹田晃子
――資料の発掘・整理・保存・継承――
◆東アジアにおける対照研究
東アジアにおいては中国語、韓国語、ベトナム語などと日本語とを比較・対照させる研究が盛んに行われている。古代の語源に関する研究は以前からあったが、現代のことばについても新たな観点やモデル設定に基づき探究が行われるようになった。漢字という言語の差を超えて用いられてきた文字について、さらにその文字から見える種々の言語事象の差異についても幅広い視点から捉えられるようになってきた。
ここでは、共通するテーマで執筆された比較・対照研究の成果の中から、金文京編『漢字を使った文化はどう広がっていたのか―東アジアの漢字漢文文化圏』(文学通信、二〇二一年三月)、沖裕子・姜錫祐・趙華敏『日韓中対照 依頼談話の発想と表現』(和泉書院、二〇二二年四月)、廣瀬幸生・島田雅晴・和田尚明・長野明子編『比較・対照言語研究の新たな展開―三層モデルによる広がりと深まり』(開拓社、二〇二二年一一月)という三点の書籍について、編者の方々に全体の総括を記していただくとともに、その研究上の今後の展開に関して展望と問題提起を述べていただく。
◯東アジア文化講座『漢字を使った文化はどう広がっていたのか』をめぐって 金文京
◯日本語談話の特徴 沖裕子
◯対照研究と言語使用の三層モデル 廣瀬幸生
【連載】
[新刊クローズアップ]はんざわかんいち、相良啓子
・『方言のレトリック』
・『日本手話の歴史的研究 系統関係にある台湾手話、韓国手話の数詞、親族表現との比較から』
[二次元世界のはなしかた]金水敏
[ことばのことばかり]はんざわかんいち
[にほんごの航海灯]田中祐輔
[国語の授業づくり]インタビューの実践と評価 小川一美
――高等学校における「話すこと・聞くこと」の資質・能力の育成――
[虎の門通信]上月さやこ
[新刊・寸感]横山詔一
・『オープンサイエンスにまつわる論点─変革する学術コミュニケーション』
・『統計学の極意』