つくられる偽りの記憶 (DOJIN文庫:18)

越智 啓太 著

990円(税込)

株式会社化学同人

自分の思い出は間違いないものと考えるのがふつうだが,近年の認知心理学の研究からそれほど確実なものではないことが明らかになってきた.前世の記憶,エイリアンに誘拐された記憶など,実際に体験していない出来事を思い出すのはなぜか.記憶をめぐる不思議を,最新の知見に基づき解き明かす.

<目次>
第1章 その目撃証言は本物か?
一 目撃証言が冤罪をつくり出す?(ウォルター・シュナイダー事件/ウォルター・シュナイダーという男/ウォルター・シュナイダーに対するDNA鑑定/目撃証言はほんとうに正確なのか/イノセンスプロジェクトとは何か)
二 あとから入ってきた情報が記憶を書き換えていく(認知心理学者エリザベス・ロフタスの登場/事後情報効果の発見/意識しないまま記憶が書き換えられていく/事後情報効果のメカニズム/どこで見た顔かわからなくなる?/ウォルター・シュナイダーの捜査でなにが起こったのか?/自分の中で繰り返し考えることによって誤った記憶が定着する/イメージ能力が高いとソースモニタリング能力が低下する)
三 質問するだけで記憶が書き換わっていく(質問に含まれている言葉が記憶を変容させる/質問の仕方が記憶の内容を左右する/質問するだけで記憶が変わる!/聞き取りによる無意識な誘導で記憶がつくられていく/自分自身のちょっとした発言によって記憶の変容が加速する/権威効果によって、記憶が変容する/自信があるからといって正しい記憶とは限らない)
◆この章のまとめ
コラム1 ジェイソン・ボーンはなぜ戦闘スキルを忘れていないのか

第2章 体験しなかった出来事を思い出させることはできるのか?
一 体験しなかった出来事の記憶(フォールスメモリー現象とは/ハイマンのフォールスメモリーをつくり出す実験/ショッピングモール実験で迷子になった記憶を思い出させる/出来事を思い出そうと努力すると記憶が生み出される)
二 イメージするとフォールスメモリーが形成される(イメージ膨張効果/イメージ化を促進するとフォールスメモリーが生じやすくなる/ディズニーランドでバッグス・バニーに会った記憶を思い出させる/偽の写真によって偽の記憶をつくり出す/子どもの頃の写真を手がかりとして呈示すると偽の記憶を埋め込みやすくなる/嫌な出来事の記憶のほうが埋め込みやすい/もっともらしい出来事でないとフォールスメモリーは形成されにくい/トラウマ記憶でさえフォールスメモリーが形成される/フォールスメモリーを植え付けられた人々)
◆この章のまとめ
コラム2 埋め込まれた記憶と本当のアイデンティティ

第3章 生まれた瞬間の記憶は本物か?
一 生まれた瞬間の記憶?――クリスチナの出生時記憶
二 人間は記憶をどこまで遡れるのか(一番古い記憶はいつの記憶か?/シャインゴールドとテニーの方法を用いた研究/何歳までのトラウマ記憶が想起できるのか?/子どもに記憶はないのか?/幼児期健忘という現象/幼児期健忘についてのフロイトの説/なぜ幼児期健忘が生じるのか?/その言葉が使えないとその言葉に関する記憶はない)
三 出生の瞬間の知覚能力(知覚体験はすべて保存されている?/赤ちゃんの知覚世界を調べる方法/出生直後の赤ちゃんに何が見えているのか)
四 催眠で過去の記憶を思い出させることはできるのか(催眠とは何か/催眠を使用して過去の記憶を想起させる方法とは/ほんとうに催眠によって過去の私になっているのか)
五 出生時の記憶を思い出させるとなにが起こるのか?(催眠によって出生時の記憶を思い出させる/そもそも出生時記憶を信じている必要性/スパノスによる出生時記憶の想起実験/チェンバレンによる「妥当性の確認」の問題点)
◆この章のまとめ
コラム3 検索できない記憶の想起にチャレンジする

第4章 前世の記憶は本物か?
一 前世の記憶を思い出した人々(前世の記憶を想起させることはできるのか/ブライディ・マーフィーの事例/ブライディ・マーフィー事例のその後/ジェーン・エバンスとブランチ・ボイニングスの事例/真性異言を伴ったアメリカ人の前世記憶の解明/無意識の剽窃(クリプトムネジア)/生まれ変わり研究のヒーロー、イアン・スティーブンソン/シャムリニー・ブレマの事例/スティーブンソンの研究はフォールスメモリーで説明できるのか?/スティーブンソンの研究に対する批判)
二 前世の記憶を思い出させる(催眠によって前世の記憶を思い出させる実験/韓国で行われた前世想起実験/前世記憶の内容は事前の教示によって左右されるのか)
三 前世の記憶を思い出すのはどのような人々か(誰が前世の記憶を思い出すのか/前世記憶を思い出すことを期待している人ほど前世を思い出す/催眠にかかりやすい人ほど前世記憶を思い出す/イメージを思い浮かべやすい人ほど前世記憶を想起しやすいのか/前世の記憶を想起する人は、実験室でもフォールスメモリーを生じさせやすい/前世の記憶が生じやすい人におけるフォールスフェーム効果/前世記憶はすべてフォールスメモリーなのか/前世療法はインチキ精神療法なのか)
◆この章のまとめ
コラム4 臨死体験は出生時の記憶の再現なのか

第5章 エイリアンに誘拐された記憶は本物か?
一 エイリアンに誘拐された人々(エイリアン・アブダクション現象/ヒル夫妻のUFO目撃/ヒル夫妻、アブダクションを思い出す/バド・ホプキンスの登場――アブダクション神話の完成/ジョン・マックの登場とアブダクション現象の大衆化)
二 エイリアン・アブダクション現象を解明する(エイリアン・アブダクションの文化影響仮説/メディアとエイリアン・アブダクションの関連/映画『未知との遭遇』の影響力/エイリアン・アブダクション・ストーリーはありふれていた/エイリアン・アブダクションの入眠時幻覚仮説/エイリアン・アブダクションのフォールスメモリー仮説/催眠によってアブダクションの記憶を想起する人々/催眠とアブダクションのフォールスメモリー/なぜ、不快なアブダクション記憶を思い出さなければならないのか)
三 エイリアン・アブダクションにあいやすい人の特性(アブダクティーの特性とは/アブダクティーは超常現象を信じている/アブダクティーは催眠にかかりやすいか/アブダクティーはイメージを浮かべやすくそれに没入しやすい/アブダクティーは実験室実験でもフォールスメモリーを生じさせやすい/エイリアン・アブダクションの記憶想起がもたらすPTSD/エイリアン・アブダクションはほんとうに起こっていないのか)
◆この章のまとめ
コラム5 エイリアン・アブダクションと悪魔教団

第6章 本当に昔はよかったのか?
一 現在の自分が過去の自分の記憶を決める(フォールスメモリーは病理現象なのか/自分は昔よりも成長しているはずだという信念が過去の自分をゆがませる/過去の自分はいまの自分よりも頭が悪かったと思うバイアス/昔の愛の記憶はいまの愛の状態によって決まる)
二 人生が終わりに近づくと過去が輝いて見えはじめる(過去の自分はすばらしかったバイアス/過去の出来事をよい記憶に変える/社会情緒的選択理論/電車の中で化粧をする最近の若者はけしからん!/日本人は昔から礼儀正しく清潔な民族だったのか?/おじいさんの記憶の中の「古きよき時代」は本物か?/本書全体のまとめ)
◆この章のまとめ
コラム6 『インセプション』と記憶の埋め込み