高校数学の不都合な真実 ―素因数分解と円周率のはなし―

有木 進 著

2,200円(税込)

共立出版

――あなたは、その証明を信じますか?

 高校数学で学ぶ証明の中には、論理的に誤りがあると指摘され続けているものが含まれている。本書では、“素因数分解”“円周率”という二つの例を取り上げ、高校数学に潜む論理的瑕疵を詳らかにし、その回避方法を提示する。

 論理的演繹で完結するイデアの世界“数学”。他方、経験則が妥当性の根拠となりうる諸科学や現実世界。交差する二つの世界に介在する矛盾に焦点を当てた、異色作。

~~~~~~~~~~~~~
 数学とは、ある仮定を設定し演繹を繰り返すことで定理を得る学問である。この仮定が物理学や各種実学の求める設定と親和性が高いとき、あたかもこの世を支配する基本原理から現実の結果を導いたかのごとき錯覚を覚える。
 とはいえ、よい仮定から構築される数学モデルは未来を予測する力を持っており、高校ではこの数学の不思議な有用性を積極的に援用することで数学を学ぶことへの納得感を醸成し、大学で学ぶこれらの実学の基礎を与えてきた。
 しかしながら、科学において真実と認められるのは、何回実験しても(とはいえ人類誕生以来有限回)成り立つ言明であって、必ずしも論理的な演繹は行われない。他方で、数学が求めるのは論理的演繹で完結するイデアの世界である。
 本書はこの食い違いが引き起こす論理矛盾を改めて周知することを目的として書かれた。
 たとえば自然数の素因数分解は一意的である。具体的に自然数を与え実験すれば毎回主張が正しいことが観察できる。しかしこの事実を演繹することは簡単ではなく、間違った説明が流布している。三角関数の理論展開にも物理が入り込んでいて純粋な演繹ではない。
 杉浦光夫の「解析入門I」(東京大学出版会)の序文では次のように書かれている。“三角函数や指数函数は良く知られているが、その解析的性質を系統的に明快な形で導くには、函数の適当な解析的表示を用いることが必要である。”そして、本文では、三角関数と指数関数を無限級数で定義した上で理論を展開するのである。
 本書では高校数学から接続しやすい三角関数や円周率の定義から演繹していき、世間に流布する理論展開の問題点とその回避方法を説明していく。高校数学の教科書を論理重視で再読し批判的思考力を養うためにぴったりな一冊である。 (著者しるす)