脳とこころから考えるペインリハビリテーション

森岡 周 編

3,960円(税込)

杏林書院

慢性疼痛の病態は多様、かつ複雑であることは言うまでもありません。現代では「痛みには生物学的要因が必ずあり、それを治療、除去することにより痛みが寛解される」という生物医学的モデルによる対症療法的アプローチではなく、患者を全人的に捉え、生物心理社会的モデルによる多角的かつ包括的なアプローチが必要とされます。さらに、その個人が影響され、観察している外部世界(環境あるいは対面に存在しているあなた自身)にも留意する必要があります。なぜなら、その個人は「誰か」および「何か」の影響によってつくられた自己像であるからです。これは「あなた自身の視点(志向性・パースペクティブ性)」を上げることで、「受け手」と「送り手」を常にモニタリングする二人称的アプローチへと疼痛医療を進める可能性を内在していると言えます。意識の志向性を上げていくことで、その個人の自己像をより緻密に捉えることができるかもしれません。
本書の特徴は、慢性疼痛を焦点化し、その脳・神経メカニズム、心理社会的メカニズム、認知・情動メカニズム、自己身体の変容メカニズムなどを章立て、脳、こころ、社会・環境、認知・情動、自己(身体)・他者・社会といった視点から、慢性疼痛に関連する要因やメカニズムについて解説した後に、スクリーニングし、分類できる評価法を紹介し、加えて、要因・疾患別にリハビリテーション手段を紹介するとともに、脳-こころを着眼点にして実際のアプローチを述べています。慢性疼痛の場合では、その病態を理解するにあたり、脳とこころの視点から捉えることが必要と言えます。
中枢神経障害の病態把握は難しく、専門職が力をあわせるチーム医療および集学的リハビリテーションの提供が今や常識となっています。多くの専門職や対象者の周辺環境に存在している者の社会的サポートがその実践のためには不可欠であることは言うまでもありません。本書を読み終えれば、ペインリハビリテーションはまさに総力戦であることか理解できるはずです。リハビリテーションにかかわる教育・研究者、臨床に携わる専門職の方々に、通読して欲しいおすすめの1冊です。巻末付録として臨床現場で使える評価ツールを収載しました。