基礎から学ぶ発育発達のための身体活動

田中千晶 著

2,860円(税込)

杏林書院

運動が身体に良い影響を与え,病気の予防や健康につながることは,子どもから大人まで認められ,周知のことと言えます.しかし,身体活動全般に目を向けると,世界では,身体不活動が死亡者数に対する4番目の危険因子となり,一方,座り過ぎていることのの弊害は喫煙に匹敵することも指摘されています.そして,このような大人の行動には,子どもの頃の習慣が持ち越します.WHOは,2019年4月,「5歳未満の乳幼児を対象とした,24時間の行動ガイドライン(身体活動,座位行動,睡眠)」を策定しました.
本書では,子どもから高齢者の「今」だけでなく「未来の元気」に繋がる,望ましい発育発達と運動・スポーツだけでは捉えきれない身体活動の重要性を,一個人の経験や主観ではなく,国内外の研究結果に基づいた最新のエビデンスを用いて執筆しました.
まず,「身体活動量」とは何かを説明した後,運動・スポーツ習慣の不足だけでは捉えきれない「身体不活動と座位行動の違い」を解説しました.そして,子どもから高齢者までの発育発達の捉え方と現状,そして,自らの元アーティスティックスイミング(旧名称:シンクロナイズドスイミング)日本代表選手や母親としての実体験から,女性に関わる諸問題についても,エビデンスに基づいた知見を取り上げました.そして,読者の皆さんが,就学前施設や学校,家庭などの現場でも利用できる「身体活動量」や「座位行動」の評価法,就学前施設や学校での健康診断および体力測定の結果の解釈についても解説しました.最後に,2014年から参画中の子どもの身体活動促進をはじめとした生活習慣改善に向けた国際比較研究の紹介と,就学前施設や学校,家庭で実施できる「身体活動量促進」や「座位行動抑制」の方法に関する知見を紹介しました.これらは,筆者が,保健体育科教員,幼稚園教諭,保育士などを目指す大学での「発育発達学」の講義や大学院の修士課程の授業で講義している内容です.また,コラムには,学生達から「役に立つ」「面白い」といった感想が寄せられた話題を紹介しました.
本書を通じて,活動的で元気な子どもの発育発達において,また読者の皆さんの生涯にわたる元気のために,運動・スポーツだけでは捉えきれない身体活動がいかに大切かをご理解いただくよう努めました.また,教科書として使う学生の方々だけでなく,実際に子どもにかかわる多くの職域の方々の日常活動,実践活動に役立つヒントや論拠となれば喜ばしい限りです.