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食品学で学ぶ内容を一連の流れとしてとらえ,「絵巻」で表現した,まったく新しいスタイルの入門教科書.
食と人間の関わりから,各種食品の特性や成分,機能性にいたるまで,つながりとして理解できる工夫を施した.
●絵巻のあらすじ
人間に興味のあるネズミ「ごんのかみ」は,ある所で出会った人間の姫を一目で好きになりました.
人間が喜ぶものをごちそうしたくなったごんのかみは,家来の「さこんのじょう」に命じ,「食品の絵巻物」をもとに
人の食べものを調べる旅に出します.
……波乱万丈のストーリーが展開される絵巻も見どころである.
●はじめにより
この『絵巻でひろがる食品学』の教科書には三つの特徴がある.
まずひとつ目の特徴は,「絵巻」があることだ.すなわち,本のはじめのページから最後のページまで続くストーリーがある.現在,私たちの普段の食生活は,食の生産,さらには食の加工が行われる〝現場〟から遠くなっている.一見不思議な「教科書×絵巻物語」の組み合わせにしたのは,食品そのものだけではなく,食の周辺にひろがる世界を描くことで,食にひろく関心をもってもらえるのではないかと思ったからだ.また,私たちが口にする食品はこれまでの人類の歴史の上に成り立ってきたものであり,その時間の連続性を表す方法として,絵巻という動的な表現が適しているのではないかとも考えた.
二つ目の特徴は,章の構成である.一般的な食品学の教科書は,食品成分などの科学(食品化学)を論じる総論のあとに,各食品群の各論を述べる構成が多い.しかし,大学などで講義をしていて気づくのは,この順番で学習すると総論の段階でつまずいてしまう場合が少なくないということである.通常,私たちが意識する「食」は,食べものそのものであり,そのあとに成分へと関心が移っていく傾向がある.本書では,その流れをふまえて第1章の導入に続いて,第2,3,4章で各食品群の各論,その後の第5章で成分に関する総論という構成をとっている.
そして三つ目の特徴は,自然科学である食品学の内容のほかに,食品の歴史や名称などの人文科学・社会科学の内容にもふれていることである.その理由は,たとえば食品学における食品の分類などが,自然科学的な面だけでなく,文化的な背景も考慮して決められているからである.人が食べるものは時代とともに変わり続ける.食品学はその変化に柔軟に対応しながら,なおかつ食品にとって普遍的なことは何かを探求することが求められる.そのために必要となる多面的な視点を養えるような内容を目指した.
食品学には,化学や生物といった基礎科学,さらには調理学,栄養学のみならず,食の歴史学,民俗学といった多くの学問への知的好奇心をかき立てる起爆剤のような性質がある.食品学を学ぶことで,普段何気なく目にしていた食品への感じ方などが変わり,私たちの食生活はさらに豊かなものになることであろう.余談だが,この本の絵巻の中にはいろいろなおとぎ草子のキャラクターや名場面が隠れている.それを眺めながら食品学についての興味をひろげてほしい.