ひとの暮らしと表面科学(現代表面科学シリーズ 5)

日本表面科学会 編集, 犬飼 潤治 担当編集幹事

3,630円(税込)

共立出版

 表面科学の初学者にも理解できるような実例を挙げながら、表面科学という切り口で我々の世界・生活を眺めてみた。第1章「人間と健康のための表面科学」では、ひとの身体を表面科学的な視点で考えながら、治療や健康維持を表面科学の手法を用いて進めていく方法が述べられている。第2章「宇宙と地球の表面科学」では、宇宙の化学進化が表面科学とどのような関わりをもって進行したのか、また我々の住む地球の表面でどのような物質・エネルギーの移動が行われているのか解説されている。第3章「ものつくりのための表面科学」では、半導体、テレビ、スポーツウェア、化粧品を、第4章「環境・エネルギーのための表面科学」では、自動車用触媒、光触媒、太陽電池、燃料電池を取りあげ、それらが表面科学的な知識と技術をどのように用いて開発され発展しているのか述べられている。最後の第5章「次世代テクノロジーのための表面科学」では、人工関節、自然と調和したゲル利用、カーボンナノチューブ応用について、表面科学の知識をどのように利用して研究が行われ、また表面科学にこれからどのような知識を加えていくのか、という展望が与えられている。各節は、それぞれの分野の専門家により執筆され、その分野の概要と現在における到達点が理解できる構成となっている。
 一方、全体を通読することによって、「表面科学」をキーワードにした「ひとの暮らし」の全体像がやんわりと表れてくる。それはやはり、モノには表面・界面があり、物質やエネルギー、情報の伝達は、表面・界面を通して行われる、という原則ではないだろうか? こういった世界の見方を原子のレベルから地球・宇宙にまで適用できるのが、表面科学という分野の魅力である。