LHCの物理 ―ヒッグス粒子発見とその後の展開―(基本法則から読み解く物理学最前線 7)

須藤 彰三 監修, 岡 真 監修, 浅井 祥仁 著

2,200円(税込)

共立出版

 2012年7月ヒッグス粒子が発見され、翌年ノーベル物理学賞のスピード受賞となった。この発見にも、八千名近い世界中の研究者が集まり、総工費5000億円をかけて、1つの粒子を探し求めた結果である。なぜここまでするのか?なぜそんなにスゴイのか?
 ヒッグス粒子は、ただの素粒子の標準理論の17番目の素粒子ではない。これまでの素粒子(物質を形作るフェルミ粒子、力を伝えるベクトル粒子)とは全くことなるタイプの素粒子であり、宇宙の誕生や進化と密接に関係した粒子である。またヒッグス粒子はその特殊性ゆえに、新しい対称性の存在が不可欠である。その対称性の最有力候補が超対称性である。
 本書は、素粒子の基礎原理を簡単にまとめ、素粒子の質量がもつ意味と問題を考え、その問題を解くヒッグス場を導入する。ここで素粒子の世界の美しい原理と、波としての素粒子、質量の意味などの基礎方程式について考える。高校や大学教養で学んだ、なんとなく古くさい堅苦しいイメージを払拭してもらうように努めている。
 物理学は実証学問である。巨大なLHC加速器やアトラス検出器も、皆さんが知っている簡単なわずかな基礎原理から理解できる。専門的になりすぎないように、素粒子実験の仕組みなどを理解できるようにした。
 ヒッグス粒子発見は、素粒子研究をリードしてきた「標準理論」の完成であり、これだけでいったいいくつのノーベル賞が出たかわからないほどの金字塔である。ヒッグス粒子の発見は、この完成と同時に、大きな問題点を突きつけるものであり、新しい時代の始まりを予感させる。標準理論の軛から解き放された素粒子研究が今後どんな風に展開するかをまとめてみた。ヒッグス粒子が示す「真空の場」と超対称性が示す「時空」を、素粒子を用いて研究する時代がはじまった。