不安定核の物理 ―中性子ハロー・魔法数異常から中性子星まで―(基本法則から読み解く物理学最前線 8)

須藤 彰三 監修, 岡 真 監修, 中村 隆司 著

2,200円(税込)

共立出版

 我々自身や、我々をとりまく物質は、どうやって生まれてきたのであろうか。 この疑問を解く1つの鍵が原子核であり、その中でも最近とりわけ注目されているのが本書のテーマ「不安定核」である。 不安定核とは、身近にある安定核に比べ、中性子数が陽子数よりも多い(少ない)ため、寿命が短く、天然には存在しない原子核のことである。 多くの不安定核は、超新星爆発や中性子星合体などの宇宙における高エネルギー天体現象において瞬間的に存在したと考えられていて、我々の世界の多様な物質を作る1つの要因になったとされる。
 最近、中性子と陽子の数をコントロールして不安定核を効率よく加速器で生成する技術が進み、その研究は新たな局面を迎えつつある。 特に、さまざまな不安定核ビームの実験によって「中性子ハロー」や「魔法数異常」のような、安定核には見られない特異構造の理解が進んできた。 中性子ハローとは、数個の中性子が、通常の原子核密度をもつ固いコアを取り巻くように、非常に希薄な密度で大きく拡がっている状態のことである。 巨大な半径や、ハローとコアの二重構造など、安定核にはない性質を持っている。 一方、原子核には殻構造があり、中性子数、陽子数が「魔法数」(2、8、20、28、50、82、126)のとき、原子核は特に安定になるとされてきた。 魔法数は不安定核にも普遍的に存在すると考えられていたが、ある種の不安定核では消失し、一方、別の不安定核には新魔法数が出現するという魔法数の異常が見いだされ、その研究が進んでいる。こうした不安定核特有の性質は元素合成過程にも大きな影響を及ぼすと考えられている。
 本書は、不安定核物理を理解するための入門書である。 原子核物理の知識がなくても文字通り基本法則から読めるように配慮した。中性子ハローと魔法数の異常(消失と出現)については、それぞれ章を設けて、最新の研究の状況を紹介した。 また、宇宙物理との関連では中性子星物質に関する章を設けた。 この章は「中性子星核物理入門」とでも言うべき内容になっている。それぞれの章はある程度独立しているので、読者の関心や背景知識に応じて選んで読むこともできるようになっている。