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本書は、パラメータの値を変えると、完全可積分系から始まって、馬蹄の存在する系までをつなぐ「可逆で、面積を保存し、向きを保つ2次元写像の1パラメータ族」を対象とし、周期軌道やホモクリニック軌道の出現を追いながら、これらの持つ位相的エントロピーを計算し、馬蹄にいたるまでの系の複雑さの進化を追う技術を展開・説明する。
第1章から第5章までで、スメールの馬蹄の構成から本書で利用する様々な数学的道具について説明する。第6章では、位相的エントロピーについて説明し、位相的エントロピーを求める二つの代表的な方法を紹介する。本書のメインとなる第7章および第8章では、周期軌道の出現の仕方を明らかにし、そのコードの持つ情報から位相的エントロピーを見積もる方法、ならびに、ホモクリニック軌道の出現の仕方を明らかにし、その性質から位相的エントロピーを見積もる方法を紹介する。
カオス・力学系を習得する際に必要な知識はその都度説明し、読みながら実践的に獲得できる。全体の構成や本文の記述も多くの工夫が凝らされており、また難しく感じられるところも、注意深く、丁寧に書かれている。ポアンカレ・バーコフ・スメールの流れを継ぐ、カオス・力学系の入門に適した書であると同時に、すでにカオス・力学系の多くの知識を持っている読者にとっても、その理解を新たにする本格的な書でもあろう。