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X線結晶構造解析は物質のミクロ構造を決定する強力な方法であり、特に無機化合物の構造決定の主役である。しかし、X線結晶構造解析は、回折現象と結晶学という非常に奥の深い物理的・数学的な理論を基礎としていて、これらを学ぶ機会の少ない化学者には理解が難しい。本書は、その難しい基礎の部分をわかりやすく解説したものである。
X線結晶構造解析では、例えば、逆格子や、フーリエ変換など、非常に抽象的な概念が頻出する。これらのX線回折・結晶学の基礎となる重要な概念を、実感をもって理解し、使えるようになることが本書の目標である。それとともに、構造解析を実際に行ったり、論文の記載を理解したりするために必要な実用的な基礎知識についても触れた。例えば、空間群記号の読み方など、初学者には必要であるが、ほとんどの教科書に解説がない事項であり、丁寧に説明した。また、特に、無機化合物の構造解析では重要となるX線の吸収や、対称心の有無にかかわる問題については、詳しく述べた。
本書は、大きく2つに分かれている。前半では、X線の回折と結晶の周期性について説明しており、初等的な回折現象の説明から始まり、波数空間(逆格子空間)についての解説や、3次元のフーリエ変換について、多くの図を用いて述べている。後半は、結晶の対称性をテーマとしているが、他書とは異なって後半にあるため、結晶の周期性や構造因子と関係づけて、結晶の対称性について、深く、かつ、実用的な解説を行っている。
X線構造解析をすでに始めている学生・研究者にとっても、「わからずに使っていたが、これはそういう意味だったのか」という発見があることと期待される。