界面現象と曲線の微積分(シリーズ・現象を解明する数学)

三村 昌泰 編集, 竹内 康博 編集, 森田 善久 編集, 矢崎 成俊 著

3,080円(税込)

共立出版

 本書は、さまざまな身近な現象が数学の言葉で表現できること、そして数学的に記述された方程式を解析することによって、現象の理解が進むことを実感できる本である。ガリレオ・ガリレイは、自然という書物は数学という言葉で書かれているという趣旨の至言を述べたことで有名だが、本書の趣旨も同じである。
 名随筆「茶わんの湯」において、物理学者・寺田寅彦は熱い湯が入った茶わんから立ちのぼる湯気をよくよく観察すると、そこには、渦、気流、熱伝導、光の反射、などさまざまな典型的な物理現象が凝縮されていることがわかるという話を名口調で展開している。また、寺田の高弟、中谷宇吉郎も、雪の結晶というスキー場でも見つけられる天空で生成された氷の粒を分析することにより、上空の気候状況がわかるから、その意味で「雪の結晶は天から送られた手紙である」という言葉を残した。本書では、現象を科学的精神でもって観察し、それを数学的な言葉で記述し、そして解析するという精神を貫いているが、それは、寺田や中谷が彼らの著述で語っていた精神に違わないと信じている。
 現象を理解するための現代的方法論の一つは次のようである。まず、上で述べた先人たちのように、現象をよく観察し、それを数学的に記述する。この作業をモデリングといい、その結果は、ニュートン以来、微分方程式として記述されることが多い。そして、得られた微分方程式を、何らかの意味で解析する。特に、手計算で解けない場合は、コンピュータを援用して、数値的に解析する。そして、解析結果をもとの現象に照らし合わせて、モデリングは妥当であったか、解析は十分であったかなどを検証する。本書では、現象として、特に界面現象に対象を絞り、できる限り予備知識を仮定することなしに、この方法論に則ったさまざまな「数学と現象」あるいは「現象と数学」の話題を提供している。本書を読み進めると、大学低学年の知識から始まり、最先端の研究結果まで到達することの一つの道筋が見えてくることだろう。