格子QCDによるハドロン物理 ―クォークからの理解―(基本法則から読み解く物理学最前線 13)

須藤 彰三 監修, 岡 真 監修, 青木 慎也 著

2,200円(税込)

共立出版

 ハドロンは、陽子や中性子、中間子などの強い相互作用をする粒子の総称である。ハドロンはより基本的なクォークとグルーオンからできている複合粒子であり、素粒子ではない。通常は、その構成要素であるクォークやグルーオンの性質を調べればよいのであるが、クォークやグルーオンはハドロン内に閉じ込められていて観測できない。このようにハドロンは構造を持つ複合粒子でありながら、その構成要素は観測できない、という奇妙な状況にある。
 本書では、そのようなハドロンの性質を、クォークとグルーオンの運動を記述する法則であるQCD(量子色力学)を用いて理解していこうという試みを紹介する。単なるお話ではなく、基本法則やそれを使った推論や計算などを通して、ハドロン物理の解説をする。
本書の内容、特に計算部分は、物理学科(志望)の大学生であれば容易に理解できるレベルである。力学、特殊相対論、量子力学などの基礎を知っていると理解が容易であるが、物理をあまり知らなくても、数学的操作や論理の展開などに慣れていれば理解できるようにしたつもりである。計算などは一見難しそうでも自分で少し手を動かしてみれば理解できるように書いたつもりなので、なるべく自分で理解するつもりで読んでほしい。もちろん、少々難しい部分もあるので、どうしてもわからない場合は読み飛ばして頂いても大丈夫である。
 第1章では素粒子とは何かについて解説し、素粒子標準理論を紹介する。第2章はハドロンについて紹介するが、基本法則の1つとしてスピンとパウリの排他原理について述べる。第3章ではハドロン物理を理解するのに必須であるQCDをファイマン図と呼ばれる視覚的な方法を駆使して直感的に説明する。第4章では、本書のタイトルにもある格子QCDの解説をする。あまり、数学的にならないようにしたつもりであるが、必要な部分では若干複雑な数式も使っている。格子QCDの数値計算に関しては基礎的な部分に絞って紹介している。第5章はその知識を用いて理解できる範囲での最新の研究成果の一端を紹介する。第6章は、本書のメインな部分であり、格子QCDを使った核力などのハドロン間相互作用の研究を紹介する。この研究は現在も進行中であり、その臨場感が伝われば幸いである。また、ここでは量子力学やその散乱理論の計算例を紹介しているので、量子力学を学んだ人は是非自分で計算を確かめていただきたい。第7章で今後の課題に簡単に触れる。
 本書を契機に、格子QCDを用いた素粒子理論、原子核理論の研究に興味を持っていただければ幸いである。