X線の非線形光学 ―SPring-8とSACLAで拓く未踏領域―(基本法則から読み解く物理学最前線 14)

須藤 彰三 監修, 岡 真 監修, 玉作 賢治 著

2,200円(税込)

共立出版

 ルビーレーザーの発明から遅れること50年余りで、ついにX線領域でも実用的なレーザーが実現した。しかも、現在世界に2台しかないX線自由電子レーザーの内1台が日本で稼働している。このSACLAを舞台にして世界中の研究者によってX線領域の非線形光学の研究が開始され、その前線は急速に拡大している。本書では立ち上がりつつあるX線非線形光学という新分野の今を紹介している。
 シリーズの思想に沿って、本書は基本的な電磁気学と量子力学といった最小限の予備知識で読破できるように書かれている。一方で専門書であるので本筋の議論は数式を用いて可能な限り誤魔化さずに進めてある。式を追うことで、可視光領域の光学が前提としていた様々な近似が破れるところに、X線特有の現象が現れる様子を見ることができる。またX線の非線形光学は原子物理や光物性そして加速器科学とも境界を接している。これら関係する部分についても簡単な解説を加えて、総合的な理解を助けている。
 読者は本書を通じて大学で習っている教科書的な物理学の上にどのようにX線非線形光学が構築されているか俯瞰し、最先端までの距離を感じられるだろう。