海洋の物理学(現代地球科学入門シリーズ 4)

大谷 栄治 編集, 長谷川 昭 編集, 花輪 公雄 編集, 花輪 公雄 著

3,960円(税込)

共立出版

 海は地表面の7割を占め、地球表層に存在する水の97%を貯えている。地球が「水惑星」と呼ばれる由縁である。また、海は地球上の生命が誕生した場と考えられており、母なる海とも形容される。
 人類は今、惑星に探査体を自由に送ることができる時代となった。しかし、歩けばたった数時間の距離である海の深部に、未だ自由に人を送り込めない。10m潜るごとに1気圧増加する高い圧力の壁が、人類の海での自由な活動を制限しているのである。
 この海を物理学の手法と考え方で理解していこうとする学問が海洋物理学である。すなわち、海洋物理学とは、「物理学の視点と手法をもって、海洋の成層と循環の動的な姿を観察し、その変動の機構を解明し、将来の変化を予測可能にする学問」といえる。
 近年、海は気候システムを構成する重要な要素として、また、溶かした物質を循環させる場として注目を集めている。海に関する科学的探究の歴史は約150年とまだ浅いが、探検的観測の時代から実験的観測の時代へと移り、私たちは今や、日々各種メディアで見られる天気図のように、「海の天気図」を作る時代を経て、さらにはモデルで海の予報を行う時代に入っている。とりわけ21世紀に入り、国際的な連携の下に整備された海洋監視のプログラムである「国際アルゴ計画」のインパクトは大きく、海洋に関する諸学問が急速に進展しつつある時代となった。
 私たちの大部分にとって海は身近なものとは言いがたいが、日々の天気や天候、季節変化、気候変動、地球温暖化など、それぞれにとって海は重要な役割を担っている。本書ではこの海の静的な、そして動的な姿をみていく。また、海はそれ自身のみで変動しているのではなく、大気からの強制力を受けて変動している。海の理解のためには、大気からの強制力を知ることも大切である。これも等しくみていきたい。
<序文より抜粋>