保型関数 ―古典理論とその現代的応用―(共立講座 数学の輝き 10)

志賀 弘典 著, 新井 仁之 編, 小林 俊行 編, 斎藤 毅 編, 吉田 朋広 編

4,730円(税込)

共立出版

 世の中に保型関数のテキストは数多くあるが、それらは保型関数の世界を社会構造論的に解説するものである。本書は、1変数の古典的保型関数論の基礎事項を述べた上で、その世界を支えている主要な函数たちを“列伝風”に描写しており、その意味で類書とは一線を画する。
 学部レベルの複素関数論、一通りの群・環・体論の知識を仮定し、まず保型関数の基礎を述べた上で、ヤコビのテータ函数・ガウスの超幾何函数の理論を概観し、それらを用いて重要な個別の保型関数を導入する。さらに、19世紀のクラインが研究した保型函数を紹介して、その現代的な応用例を詳述し、最後に志村五郎によって研究された高次虚数乗法論の明示的な実例を構成する。
 嘗て、高木貞治は『近世数学史談』において、楕円函数論を、ガウスの超幾何函数・ヤコビのテータ函数・アーベルの虚数乗法論の三幅対と見立てた。本書はこの高木の観点を拡大展開し、さらに将来の多変数保型関数論のための幾つかの切り口を用意する意図で展開されている。