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ある媒質の中を波が伝わるとき、その波面(波頭面)がお互いに干渉しあって、特異点が発生する。本書はこの「波面の伝播」によって現れる特異点集合とそれによって生成される「焦点集合」を研究するための幾何学的枠組みについて解説している。
単独の波面はルジャンドル特異点論という接触幾何学の範疇で記述され、一方、焦点集合はラグランジュ特異点論というシンプレクテイック幾何学の範疇で記述されることが、ヘルマンダ―やアーノルドの研究により解明されている。ここでは、「波面の伝播」を考えることと「焦点集合」を考えることが厳密に同じことであるということを「大波面」や「グラフ型波面」という概念を導入することにより明かされることを解説している。この「波面の伝播」や「焦点集合」はハミルトン系に依存して伝播される「波」と考えられるものすべてに対応し、古典的微分幾何学の様々な性質、いろいろな非線形微分方程式の解の特異性、相対性理論における「事象の地平線(ブラックホール)」や近年の素粒子物理学と関連する「ブレーン宇宙論」などと密接に関係している。本書は、この「波面の伝播」を記述するための基本的な枠組みの記述と、様々な応用の入り口への水先案内となっている。
本書を読むための前提としては、「線形代数」「微積分」「位相」に関して基本的な知識をもっていれば十分であるが、理学部数学科で学ぶ「代数学」や「多様体」の知識があればより簡単に理解が可能であると思われる。