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地球上で100億人が
持続的に生きるための知恵満載
宇宙旅行食にも可能な
昆虫博士たちの未来への視点
――毛利衛(宇宙飛行士・日本科学未来館名誉館長)
ときに「害虫」として嫌われてきた昆虫が,救世主になる日も遠くないのかもしれない.
近年,注目を集める昆虫食について,私たちはどんなことを知っているのだろうか.
本書では,昆虫の栄養価やアレルギーのリスクといった食材の側面だけでなく,
昆虫食の歴史的な背景,地球環境への影響,ビジネスとしての可能性,
さらには昆虫の福祉に至るまで,さまざまな角度から昆虫食に焦点を当てる.
昆虫を賢く活用し,しなやかに共存するために.
●はじめにより
昆虫と人との関わりは,戦いの歴史だ.
農村では作物を食べる虫たちと,都市部では衛生面で悪影響を与える虫たちと人々は戦ってきた.
もともとは自然の一部だった虫たちを「害虫」として分離・単純化し,
「人類の敵としての昆虫像」をつくり上げることで,戦う相手を可視化したのである.
このことは,農作物の収量や衛生環境を劇的に改善させた.
今日の豊かな生活は,「害虫」に対する勝利の上に成り立っている.
しかし,いまや害虫という概念が活躍する時代は,終わりを告げようとしている.
効率化を高めた近代農業は,生態系に大きな負荷を与えている.
薬剤散布によって一度は勝利したかに見えた害虫との戦いは,薬剤耐性を獲得した害虫の出現により泥沼化した.
害虫を排除する精神が広がりすぎた結果,人々は過度に昆虫を嫌悪し,排除するようになった.
私たちの豊かな生活は,地球環境問題という大きな壁に直面し,さらに新しい段階に向かおうとしている.
いまや昆虫はもっとも注目を浴びている生物資源のひとつだ.
これからは,エネルギーをかけて昆虫を排除するのではなく,しなやかに共存していく必要がある.