平均曲率流 ―部分多様体の時間発展―

小池 直之 著

5,280円(税込)

共立出版

 平面を2つの領域に分ける曲線や、空間を2つの領域に分ける曲面は界面とよばれる。例えば、水と油のように、2つの領域に別々の物質があるとき、それらの物質を分ける境界面という意味合いで界面という言葉が用いられている。界面は時間の経過とともに動く。その動きの法則を記述する方程式は界面運動方程式とよばれる。
 界面の内側、外側の物理的状態によらない界面の形状のみに依存する界面運動方程式の代表例として、平均曲率流方程式が知られており、平均曲率流方程式の解を与える界面の1パラメーター族を平均曲率流とよぶ。
 近年、平均曲率流をはめ込み写像の発展として捉える、微分幾何学的アプローチが注目されている。例えば、ポアンカレ予想の解決に用いられたリッチ流は、リーマン計量の時間発展であり、ベクトルバンドルの切断の同種の発展とみなせるため、平均曲率流の研究と密接に関わっている。また、シンプレクティック幾何において、ラグランジュ平均曲率流の研究が盛んに行われており、余次元2以上の平均曲率流を取り扱える、はめ込み写像の時間発展としての平均曲率流の研究が重要性を増している。
 本書は、微分幾何学の視点から平均曲率流を学ぶための初の和書であり、微分幾何学・位相幾何学と解析学の懸け橋になることを目指して執筆された。

<書評掲載案内>
■第74巻 第2号(2022年4月春季号)『数学』(評者:國川慶太)