漁業生産の観点からベントス研究をまとめる / ベントスは本来海底の生態系の主要な構成者として漁業生産と密接な関係を持つ。しかし、ベントスと漁業との係わりについて体系的に論じた研究は少ない。本書は漁業生産という観点からのベントス研究の現状と到達点、今後の課題を明らかにする。
はじめに
19世紀末から20世紀初頭にかけてPetersenとその共同研究者が行った一連の研究をきっかけに,その後の1世紀の間にベントス研究は目覚ましい発展を遂げたが,その成果は個体群生態学や群集生態学といった生態学の分野や,環境科学の分野においてとりわけ著しい.しかし一方で,ベントスは海底をめぐる生態系の主要な構成者として,資源生物の生産の基礎を支えるという点で,漁業とは切っても切れない存在であるはずであるが,食物資源としての価値を有する一部の種を除いて,漁業生物学的な立場から体系的に論じた研究は今なお必ずしも多くない.もともとPetersenらの研究が,北海のカレイ類の生産との関連で,餌料としてのベントスの分布を量的に把握することを目指していたことを思うと,この思いはなおさらである.
以上のような問題意識のもとに,2004 年 4 月5日に鹿児島大学で開催された日本水産学会大会で,「ベントス研究の漁業生物学的展開」と題してシンポジウムを行い,下記の課題について話題提供を受け,漁業生物学的な立場から,これまでのベントス研究を振り返り,今後の研究方向について包括的に議論した.