エビ・カニ類資源の維持管理や利用の課題 / 地域の漁業を支えている資源としてのエビ・カニ類について、主要種の生態学的徳性に関する知見を集約するとともに、資源の維持管理・利用上の問題点を纏める。
はじめに
わが国はエビ・カニ類の大量消費国である.エビ・カニ類は年間約 40万 t が輸入されているが,その一方で各地の漁業の主対象種として漁獲され高価格で取引きされている種も少なくない.これらの種は寒海性から暖海性,内湾性から深海性と多岐にわたり,その地域でしか水揚げされない特産種もいる.わが国はエビ・カニ類の大量消費国であるだけではなく,多様なエビ・カニ類資源の保有国でもあるが,魚類資源に比べると研究は少なく知見も乏しい.
そこで,2003 年 4 月 5 日に日本水産学会大会行事としてシンポジウム「地域特産資源としてのエビ・カニ類の多様性と重要性」を下記のような内容で東京水産大学(2003 年 10 月より東京海洋大学海洋科学部)で開催した.このシンポジウムの目的は,地域の漁業を支えている資源としてのエビ・カニ類について,主要種の生態学的特性に関する知見を集約するとともに,資源生物,資源解析,資源経済という研究分野の枠を越えて資源の維持管理や利用上の問題点と今後の展望について討議を行うことであった.
本書は当日の講演に質疑応答の趣旨を考慮して執筆し,編集したものである.水産資源学は 1 世紀以上にわたり,魚類を中心的な対象として発展してきたが,エビ・カニ類は多くの生態学的特性あるいは漁獲特性が魚類とは異なる.したがって,魚類を対象とした資源解析の手法や管理の技術が必ずしもエビ・カニ類に有効とは限らない.今後期待されるエビ・カニ類資源学の更なる発展に,本書が少しでも貢献できれば幸いである.