海藻食品の品質保持と加工・流通 水産学シリーズ133

小川廣男 編著, 能登谷正浩 編著

3,960円(税込)

株式会社恒星社厚生閣

海藻の食料利用の新局面を拓くカギを提供 / 今日海藻に関しては、その医薬的用途にスポットが当てられ、食用海藻の生産・流通・加工に関わる技術的研究はやや立ち遅れている。本書は、わかめ・こんぶ・のりなど海藻の食品としての利用の新たな局面を拓くための最新情報を食品産業界と研究者が協同して提供する。



はじめに
 伝統的な食用海藻であるノリ,ワカメ,コンブは,先人の努力により人工採苗技術等が確立し,今日ではいずれも養殖生産が可能となり,ノリ栽培のような「運草」から脱し,現在は年間約 2,000 億円の産業に発展している.しかし,その後の技術革新あるいは食品としての新規用途の開拓は,健康食品としての海藻サラダの他見るべきものはない.その間,米離れ等食習慣の変化,内外の市場解放による流通環境の変化,高付加価値の多様化,HACCP への対応と安全性の問題等々,食用海藻をとりまく環境の変化は著しい.今日,海藻の医薬的用途や機能性成分などの非食品研究が先行する中で,食用としては従来どおりで此処数十年が推移した.食用海藻の生産・流通・加工に係わる品質保持や安全性については,現在,ポスト・ハーベストなど十分に検討を要する種々の問題があり,これまで以上に現場と研究者が共通の認識に立った早急の解決が求められている.
 以上のような利用や研究の現状をふまえて,ごく些細な「こんなことも分かっていない」といったことをはじめとして,最近の海藻食品をめぐる課題を整理し,今後の研究方向に示唆を与えることを目的として本シンポジウムを企画した.平成 14 年度日本水産学会大会(近畿大学農学部)において「海藻食品の品質保持と加工・流通に関する課題」と題して開催したところ,多数の方々のご参加を戴き,貴重な話題の提供と活発な討論がなされた.本シンポジウムが,予定よりも早く開催できたのは,機が熟すというよりは,今こそ海藻食品の品質・加工・流通に係わる諸問題について,多角的に現状と問題点を確認し,今後を展望しなければ,わが国は海藻食品についての世界のリーダーたりえないとの危機感が誰にもあったのかも知れない.  
 本書は,標記シンポジウムの講演内容を中心に質疑応答と総合討論の内容を考慮,加味してとりまとめたものである.執筆者の立場や視点が研究者,生産者,加工業者と様々であるため,一書としては統一に欠ける嫌いがあるが,それらはすべて編者の責任である.本書を通して,今後この分野の研究に一層の関心が寄せられ,特に若い研究者に海藻食品への理解が深まれば幸いである.