水産環境における内分泌攪乱物質 水産学シリーズ126

川合真一郎 編著, 小山次朗 編著

3,960円(税込)

株式会社恒星社厚生閣

環境ホルモンの知見を整理し課題を検証する / 内分泌攪乱物質を含んだ科学物質が最終的に流れつく水環境で水産生物はどのような影響を被るのか。既往の知見を整理し課題を提言する。



はじめに
 わが国では 1997 年の春ごろから内分泌攪乱物質問題がマスコミや一部の学術雑誌でとり上げられ始め,一時は連日,パニック的ともいえるほどの過熱した情報が飛び交う状況も見られた.この間に各省庁,大学,自治体,企業の研究機関でプロジェクトがスタートしたり,内分泌攪乱物質学会の創設や既存の学会でのシンポジウムの開催などが相次いだ.その結果,この 3 年間に質的および量的に膨大な知見が集積されてきた.もちろん,内分泌攪乱物質,あるいは環境ホルモンという述語が誕生する以前からこの問題に着目して取り組んでいた研究者の存在も忘れてはならない.
 内分泌攪乱物質問題についてのマスコミの取り上げ方も1999年秋頃から落ち着きを見せてきたが,沈静化⇒尻すぼみ となってはならない.というのは,ラットやマウスなどの実験動物,また魚類やその他の水生生物に実験的に投与した化学物質がいかなる内分泌攪乱現象を引き起こすかについては多くの知見が得られているが,実験条件が現場の状況とかけ離れている場合も多く,自然界で生起している内分泌攪乱現象の因果関係を明確に説明できるケースは依然として非常に限られているからである.このあたりで既往の知見を整理し,当面の課題そして中長期的な課題が何であるかを明らかにしておくことは非常に大きな意義があると考え,シンポジウムを企画した.
 また,このシンポジウムを日本水産学会において取り上げることのねらいは,内分泌攪乱物質を含めた多くの化学物質が最終的に辿り着くところは河川や池,湖,海などの水環境であり,そこに生息する生物,それが水産的に有用であろうとなかろうと,どのような影響をこうむるかを可能な限り明らかにしたいということである.
 最後に,このシンポジウムを開催するにあたり,強くバックアップいただいた日野明徳先生をはじめ環境保全委員会のメンバーの方々に厚く御礼申し上げる.